「学生時代の思い出は?」と聞かれたら、どの場面を思い出しますか?
授業、学校行事、休み時間なども思い出しますが、部活動の時間を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
放課後の部活動、朝練、夏休みの練習、大会、そして部員の仲間たちとの帰り道。
時間を積み重ねていくことで思い出も深みを増していきます。
今回はそんな部活動の意義と今後の課題について掘り下げていきたいと思います。
目次
1、どのくらいの生徒が部活動に加入しているの?
部活動の参加率
日本の部活動の参加率は、中学1・2年生は8割以上で非常に高いです。
3年生になると受験のため引退するような形で練習に参加しなくなります。
中高一貫校の場合はエスカレーター式に高校へ進学できるため中学3年生でも部活動に参加しています。
高校生は中学生ほど高くはありませんが、それでも1・2年生は7割程度の参加率です。
部活動への強制加入
平成29年にスポーツ庁が実施した調査によれば、全国の公立中学校の3割が生徒全員を部活動に加入させています。
中でも東北地方は強制加入の学校が多く参加率は7割前後に及びます。
一方で、子どもたちの中には学校の部活動ではなく「塾に通って勉強したい」、「習い事をしたい」、「学校外のスポーツクラブで運動したい」と希望している子もいます。
日本の部活動は「自発的・自主的に活動するもの」と定義されています。
今後は生徒の自主性を重んじて任意加入の学校がもっと増えていくと思われます。
なお、私立の中学・高校でも生徒を部活動に強制加入させる学校は意外とあります。
その背景にあるのが生徒数の減少です。
定員を大きく割っている私立校で部活動を任意加入にすると、各部活動の人数が少なくて練習が成り立たないのです。
バスケットボール部なのに部員が1人しかいないという事例もあります。
試合どころかパスする相手さえいませんね。
このような学校では部活動を活発にするために強制加入させています。
2、部活動の昔と今
部活動は従来通り大きく2つに分けることができます。
陸上や球技、武道など体を動かす「体育会系」。
演奏や伝統文化にふれる、もしくは発展的な学習をおこなう「文化系」。
けれども、昔と今では少し違う部分もあります。
子どもに限らず親世代の価値観も多様化している昨今、それに応じるように部活動も多種多様になっています。
かつては技術を向上させて大会で優勝する、コンクールで金賞をとる、昇級・昇段試験に合格するなど結果を求めて活動している部がほとんどでしたが、最近では大会などに参加しない「ゆるい部活」が増えているのです。
レクリエーションをしたり好きなアニメについておしゃべりしたりと、学校生活を楽しくすることに重点を置いています。
顧問や先輩の指導の下で厳しいトレーニングを積み重ねていくイメージを持っている人からすれば、「これって部活なの?」と思わず言いたくなるかもしれません。
そんなゆるい部活ですが、同じものに関心を持つ子どもたちが集まれば学びや心の成長を促進する機会になると期待されています。
学校経営という別の観点で見ると、帰宅部の生徒が増えるよりは珍しい部をつくって活動したほうが広報の面でメリットがあると言われています。
3、部活動に参加するメリットは?
子どもたちが部活動に参加するメリットはなんでしょうか。
ここでは代表的なメリットを6つ紹介します。
①人間形成
部活動の準備・練習・片づけなどをしていく中で社会性や協調性など人間形成を育むことができます。
②成功や挫折の経験を通じたメンタルの強化
努力を重ねて得られた成功体験はいつまでも自分の心の支えになります。
一方で、挫折の経験も価値があります。
受験や就職、そして社会人生活では独りで挫折を味わうことがあります。
そんなときに心がポキッと折れないように、若いうちに仲間と共に努力してもうまくいかなかった経験をしておくことは意味があります。
挫折にめげることなく立ち直れるような精神的な強さを養うことができます。
③仲間との出会い
同じことに興味を持っている仲間と出会い、練習を通じて絆を深められます。
学級は毎年クラス替えがありますが、部活動は卒業まで同じメンバーです。
そのため、クラスよりも部活動を楽しみにしている生徒は珍しくありません。
部活動の仲間は学校内にとどまらず、卒業してもずっと関係が続いていくことが多いです。
④技術力の向上
他者や他校と競っている中で毎日のように練習することで自身をスキルアップさせることができます。
⑤将来の進路実現
多くの部活動には大会を運営管理する連盟があります。
地域の大会から全国大会まで道のりが組織化されていて、そこでの活躍が将来の進学や就職に結びつくこともあります。
⑥規則正しい健康的な生活
放課後は部活動をして程よく体が疲れることで夜はしっかり眠れます。
健康的な生活リズムを保つことで部活動だけでなく学業にも身が入ります。
もし中学校に部活動がなかったら、皆さんはどのように過ごしますか。
勉強するなど有意義に過ごす人もいるでしょう。
けれども、何もすることがなくて家でぐうたら過ごしてしまう子もいるはずです。
アメリカでは「運動部に参加する生徒のほうが、そうでない子どもよりも犯罪率が低い」というデータがあります。
ここでの運動部とは日本の部活動のことです。
エネルギーを持て余す若者はそれを発散する健全な場所がないと、反抗期と相まって悪い方向へと進んでしまうことがあります。
このように部活動にはさまざまなメリットがあります。
部活動の効果を数値で細かく評価するのは難しいですが、部活動経験者が「部活動のおかげでここまで成長できた」、「部活動で学べたことは多い」など肯定的に評価していることは皆さんもよくご存じだと思います。
4、海外の部活動はどんな感じ?
ここまで日本の部活動について述べてきましたが、海外でも日本と同様に部活動をしているのでしょうか。
ここからは海外の部活動について掘り下げていきたいと思います。
アメリカ
まずはアメリカの部活動です。
アメリカでは中学校よりも高校の部活動のほうが盛んです。
特にアメリカ人に人気のあるアメフト、バスケ、野球は入部希望者が多いです。
でも、希望者が誰でも入部できるわけではありません。
一部例外はありますが、基本的に入部審査に合格した生徒しか入れない選抜制なのです。
ここが日本の部活動とは大きく異なる点です。
初心者に対してもゼロから指導してその過程で協調性や社会性を育てていく日本と違って、アメリカでは有能な選手を集めて勝利至上主義のチームを作ります。
また、アメリカの部活動は活動期間がせいぜい4カ月程度しかありません。
入部審査を通過した上手な選手が短期間で練習して、大会が終わったらそれで活動は終わりです。
アメリカでは3年間同じ部活動に所属して地道に練習を重ねることはしないのです。
それどころか運動能力の高い子は季節ごとに別の部活動に所属しています。
活動期間が重ならなければ同じ子どもがアメフト部、バスケ部、野球部に入部できるのです。
その一方で、運動能力の低い学生は希望しても入部できません。
厳しい感じもしますが、どこに重きを置くかでその印象も変わるでしょう。
日本では3年間ずっと練習を頑張ってきた部員が一度も試合に出られないケースはよくあります。
アメリカでは入部できれば試合に出られる可能性が高いです。
どちらが良いのかは人によって意見が分かれそうですね。
その他に日本とアメリカではどのような違いがあるでしょうか。
アメリカでは地域のクラブチームと部活動の両方に所属する子どもが多いです。
先ほど入部審査についてふれましたが、地域のクラブチームで経験を積んで上達している子どもが入部審査をクリアできます。
日本でもプロを目指している子どもたちが地域のクラブチームで練習を重ねていることはありますが、ほとんどの子どもたちは部活動だけで練習しています。
日本のように学校の部活動だけで能力を伸ばすやり方は世界的には珍しいです。
ところで、日本の部活動は市大会、県大会、地方大会、最終的には全国大会まで開催されます。
全国大会を開催できる組織化された連盟があるおかげです。
他方で、アメリカはほとんどの部活動が州の大会までしかありません。
国土が広いこともあって中学生や高校生の部活動で全国大会を開くのは難しいのです。
日本の夏の風物詩と言えば甲子園ですが、アメリカにそのような大会はありません。
韓国
音楽・ドラマ・映画・旅行・料理など何かと話題になる韓国。
そんな韓国の部活動はどのようなものでしょうか。
部活動について述べる前にまず韓国社会の特徴を確認しましょう。
一般的な韓国の家庭では幼い頃から将来の就職を重視した育て方をします。
たとえば、子どもを大企業に就職させるために塾に通わせて一流大学合格を目指します。
とりわけソウル大学、高麗大学校、延世大学校は最難関大学のトップ3で、頭文字をとってSKY(スカイ)と呼ばれています。
受験戦争は実に過酷です。
学生は朝早くに登校して始業前の学習をします。
それから通常の授業を受けて、放課後は塾や自習室で勉強します。
帰宅が夜中になるのは日常です。
親の期待を背負って限界まで勉強するのが韓国の学生です。
そんな彼らに部活動をする時間はありません。
では、韓国に部活動はないのでしょうか。
いえ、韓国にも部活動は存在します。
いったい誰が部活動に入部するのでしょうか。
それはその競技のエリート達です。
先ほど韓国では幼い頃から将来の就職を重視した育て方をすると書きました。
大企業に就職させたい親もいれば、プロスポーツ選手になってほしい親もいます。
韓国では子どもをプロスポーツ選手に育てるために、小学校を欠席させてまで練習を優先する親がいます。
韓国のプロゴルファーが強いのは幼い頃からゴルフ漬けだからです。
こんなふうに勉強ではなくスポーツに舵を切った子どもたちが部活動に入部します。
日本には野球部のある高校が4000校近くありますが、韓国では100校にも満たないです。
野球人口の多い日本のほうが圧倒的に強そうですが、国際大会で日本と韓国は良きライバルです。
野球人口が少なくても少数精鋭の韓国は強いのです。
このように、韓国では多くの生徒にとって部活動は無縁なものです。
限られた一部の学校にしか運動部がないため大会の規模も小さいです。
甲子園のような大規模な全国大会はありません。
なお、あまり盛んではありませんが、文科系の部活動もあります。
その他の国々
日本とは異なる国々を簡単に紹介します。
ドイツや北欧の国々は部活動がほぼありません。
放課後に教員が分担して子どもたちに運動や演奏の指導をしている日本とは全く違いますね。
部活動の代わりに子どもたちは地域のクラブに所属しています。
もちろん加入は任意です。
ヨーロッパと言えばサッカーが盛んですね。
プロサッカー選手になりたい子どもは、小学生の頃からプロサッカーチームの運営するユースチームに所属してプロを目指します。
日本でも一部の競技では子どもたちは部活動ではなくユースチームに所属していますね。
国際比較のまとめ
海外の部活動は日本とは大きく異なっていました。
国によって部活動の成り立ちや位置付けが違いますし、国民の価値観や社会構造も違います。
さまざまな要因が複合して、海外と日本の部活動に違いが生じたのでしょう。
日本の部活動の特徴を以下のようにまとめることができました。
・多くの生徒が卒業までの3年間1つの部活動に専念する
・教育活動の一環として人間形成の促進を目標にしている
・地域の大会を勝ち上がると全国大会にも参加できる
日本では1つの部活動に継続して取り組むことは評価されます。
就職や進学の際にも部活動についてよく聞かれますよね。
学生時代に部活動をずっと頑張っていた人は協調性がある、持続力がある、上下関係のマナーを知っているなど信頼されやすいのでしょう。
部活動で優秀な成績をおさめていれば、さらに高い評価を得ます。
前述の3つの特徴があるからこそ、日本では部活動の実績が就職や受験で重視されるのでしょう。
親しい韓国人が「日本では仕事で知り合った人から学生時代の部活動について必ずと言っていいほど聞かれる。韓国では部活動に所属しないのが一般的だから、そんな会話をしないんだ」と言っていました。
日本人にとって所属していた部活動、大会やコンクールでの成績はその人のアイデンティティを知る重要な要素なのかもしれません。
5、サブカルチャーから知る海外との違い
日本のマンガ、アニメ、ドラマ、映画は部活動を題材にしたものが実に多いです。
野球、サッカー、バスケ、バレー、テニスなど体育会系だけでなく、吹奏楽、軽音、書道など文科系の作品も充実しています。
マンガに限って言えば、一般的な部活動であればすべて題材として扱われているのではないでしょうか。
このようにサブカルチャーの作品を思い浮かべると、部活動が日本人にとって身近で、題材として受け入れられていることがわかります。
一方で、海外の作品はどうでしょう。
たとえば、アメリカの映画やドラマで部活動が描かれている作品を思い浮かべることはできますか。
高校など学園生活を舞台にした映画はありますが、部活動にフォーカスしている作品はほとんどありません。
『glee』など数える程度です。
アメリカのマンガ、アニメにいたっては部活動の作品は思い浮かびません。
韓国ドラマや映画で考えると、実在の人物をモデルにした『野球少女』くらいでしょうか。
このように海外の作品では登場人物が部活動に所属しているケースはありますが、部活動が作品の主題になっていることはまれです。
部活動の目的や位置づけ、活動期間などが日本と違うので、部活動で1つの作品をつくるのは難しいのかもしれませんね。
6、日本の部活動のマイナス面は?
部活動は学校の先生が教育活動の一環で顧問をつとめています。
しかし、何か1つでも歯車が合わなくなると部活動は教育上不適切なものに転じます。
いくつか例を挙げてみます。
顧問が絶対的な存在になる
顧問は練習内容を自由に決めることができます。
授業などの学習指導は同じ教科の教員と打ち合わせながら進めていきますので、1人の教員が暴走することはあまりありません。
しかし、部活動の練習メニューは他の教員と打ち合わせる必要がないため、顧問の独壇場になります。
「グラウンド30周走れ」と言えば部員はその通りに走りますし、「今日はずっと筋トレだ」と言えば部員はそうします。
「過酷な体力づくりこそが部活動だ」と思い込んでいる顧問がいれば、子どもたちはその考えに付き合わざるを得ません。
部員のあいさつの声が小さかったという理由で懲罰的に「腕立て伏せ100回だ」と指示すれば、子どもたちはその指示に従います。
たとえ顧問が怒りにまかせて部員に過度な運動を命じたりののしったりしても、教育の一環と捉えられて問題視されないことがほとんどです。
いじめの温床になる
前述の顧問と同じように、上級生の指示は下級生にとって絶対的なものです。
顧問の目の届かないところで上級生が下級生に練習に関係のない行為を強いることがあります。
上級生にとっては軽い悪ふざけのつもりでも、下級生にとっては苦痛の時間です。
徐々にエスカレートしていって暴力的になったり金銭を要求したりするケースもあります。
同級生同士でもこのようないじめが起きることもあります。
顧問がほとんど活動場所に来ない場合、いじめの温床になるリスクが増大します。
そのため、顧問は部活動に責任を持って参加して、いじめの起きない環境をつくらなければなりません。
部活動を辞めさせてもらえない
部活動になじめない生徒がさんざん悩んだ結果、顧問に退部したいと伝えにいきます。
しかし、顧問はそれを認めません。
これはよくあることです。
顧問はここを乗り越えることで成長できると思い、生徒を説得します。
顧問の考えも理解できますが、あまりにもしつこく説得していると子どもに大きな精神的負担を与えます。
「途中で辞めるなんて無責任だ。他の部員に迷惑を掛けることが分からないのか」と何時間も叱る教員もいます。
結果的に生徒が精神的な苦痛を感じて不登校になるケースもあります。
部活動が教育の場だからといって説教していればよいというわけではありません。
課外活動が原因で不登校になり学習の機会まで失った子どもたちは本当に気の毒です。
部活動のマイナス面を3点挙げました。
部活動は健全な教育活動の場でなければなりません。
そうでなければ、子どもたちの成長を妨げる恐れがあります。
深い心の傷を負う子や、不登校になって成績が下がり受験で不利になる子もいます。
部活動を教育活動の場と言うのならば、顧問は「指導」の域を超えた心理的および肉体的な虐待をしてはなりません。
※本文は「日本の部活動は世界では珍しい!? ―教員の待遇改善と外部指導者の雇用―」へ続きます。以下よりお進みください。
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日本の部活動は世界では珍しい!? ―教員の待遇改善と外部指導者の雇用―
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滝川 知靖(たきがわ・ともやす)
東京都在住の教育コンサルタント。大学卒業後に教員になり、私立高校や通信制サポート校を経て東京都内にある中高一貫教育の私立女子校で教壇に立つ。約20年間で中学1年から高校3年までの全学年の担任を務めた。特に、中学3年と高校3年の進路指導の経験が豊富。また、生徒一人ひとりの悩みに昼夜を問わず親身になって相談に乗る日々を過ごしてきた。特に、悩みを抱える子どもたちを献身的に支えたことで知られている。
現在は教育コンサルタントとして生徒および保護者のサポートをしている。その内容は、進路相談、勉強方法、不登校の生徒のサポート、発達障害のある子の支援など多岐に渡る。また、学校現場からの相談にも対応している。
近著『令和時代の私立中学校・高校選び ~わが子の進学先をどう選ぶか~』
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