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学校業務を改善する Part3
今回は学校業務を改善する3つめの方法を紹介します。
3回目の今回は学校と保護者をつないでいるネットワークについてです。
緊急時の連絡手段として大いに役立っていますが、今このネットワークが教員を疲弊させています。
本ページを読んで「自分の勤めている学校ではこの件について不満がない」と考える先生もいらっしゃるでしょう。
学校運営が円滑で効率よくおこなわれている場合にそう感じると思います。
そのような方はご参考程度にお読みください。
学校独自のネットワークがなくても既存のメールやコミュニケーションアプリを利用して保護者や生徒と連絡を取っている先生方にも本内容は参考になると思います。
このページ内の目次
学校と保護者のネットワーク
20年前まではほとんどの学校で緊急時に電話連絡網を使っていました。
教員にとっても負担でしたが、保護者も次の人に連絡がつかなかったときにわずらわしさを感じていたと思います。
しかし、2011年の東日本大震災以降、多くの学校が保護者との新たなネットワークを構築するようになりました。
どのようなネットワークなのかご説明いたします。
まず保護者は入学式以降にネットワークのアカウントを取得します。
自分のメールアドレスを登録すれば手続きは完了です。
主な使い道は災害時や臨時休校などの緊急時です。
学校は全保護者へ連絡事項を一斉送信する際にこのネットワークを利用します。
学校が一斉送信すると通知メールが各保護者のスマートフォンに届きます。
保護者は専用サイトにログインすることで連絡事項の内容を知ることができます。
このように一度の送信ですべての保護者に連絡が行き渡るため、教員にとって大変便利です。
なお、学校と保護者をつなぐ連絡ツールは企業が運営しています。
保護者は毎年そのサービスの利用料を納めています。
利便性は学校によってさまざま
連絡ツールの利便性の良し悪しは学校がどの企業のサービスを利用しているかによって異なります。
もっともシンプルなサービスの場合、学校からのみ送信できる一方通行タイプです。
感染症の流行による臨時休校や体育祭の雨天中止などを知らせる場合に用います。
保護者はメールの内容を確認するのみで返信はできません。
学校側は各保護者が既読か未読なのかを専用サイトで確認します。
未読の状態が続く保護者に対しては再送するか電話をかけて連絡事項を伝えます。
学校と保護者の間でメールを送受信できるタイプもあります。
保護者が学校から届いた一斉送信のメールを読んで、質問などがあれば返信できるのです。
一斉送信だけでなく教員と1人の保護者との間で送受信が可能なタイプもあります。
この場合、使い道は大幅に増えます。
たとえば、担任が欠席した生徒の保護者に明日の授業の持ち物を伝えたいときにメールで済ませられます。
電話しか連絡手段がなかった頃、保護者への電話連絡は教員の大きな負担になっていました。
特に保護者が留守番メッセージを残せない設定にしている場合です。
担任は空き時間になるたびに何度も電話を掛けなければなりませんでした。
でも、このネットワークがあればそのような保護者に対してもメールを一度送ればよいので便利です。
保護者にとってもメールの送受信が可能なのは大変便利です。
子どものことで心配なことがあれば、担任や部活動の顧問にメールで相談できます。
学校によっては保護者だけでなく生徒もアカウントをつくれます。
これにより生徒が教員にメールで相談することもできます。
学校で相談するのはためらうけれど、メールであれば打ち明けられるという生徒もいますので有効なツールです。
オプション機能を付けられる連絡ツールもあります。
たとえば、学校行事で撮影した画像をネットワーク内にアップロードして、希望者が自由にダウンロードできる機能です。
連絡ツールを運営する企業は今後も機能を充実させて顧客の獲得を図るでしょう。
なお、このネットワークは基本的に教員と保護者、教員と生徒をつなげるためにあります。
保護者同士の連絡や生徒同士の連絡には使用できないことがほとんどです。
ネットワークに束縛される教員
教員と1人の保護者との間で送受信が可能なタイプの場合、保護者は担任に相談したいことがあれば都合のよい時間にメールを送信できます。
あとは待っていれば担任から返信が届きます。
教員は保護者からのメールを既読スルーで済ませるわけにはいきませんので必ず返信します。
保護者にとって使い勝手のよいツールです。
便利なツールであれば自然と保護者の利用頻度は高くなります。
そして、保護者は以下のように相談方法を使い分けるようになります。
相談方法の選び方
- メール・・・・・・初期の相談、簡単な相談
- 電話 ・・・・・・深刻で急を要する相談
- 面談 ・・・・・・大事な相談、学校に対する強い抗議
上記の通り、ほとんどの相談はメールで済ませるようになります。
教員の日常
ここで一度教員の視点に立ってみましょう。
ある日仕事を終えて、夜8時過ぎに帰宅しました。
9時過ぎに夕食を食べているとメールの着信音が鳴りました。
保護者からのメールが届いたという知らせです。
ようやく一息ついたのにと思いつつ、専用サイトでメールを開きました。
「自分の子どもは友達の〇〇さんといつも仲良くしていたが、どうやら最近は△△さんと親しくしているようです。何かトラブルを抱えているのでしょうか。何か知っていることがあれば教えてください」
このような内容でした。
担任はこの件について把握していました。
相談してきた保護者の子どもは確かに元々〇〇さんといつも一緒にいました。
体育祭の二人三脚で△△さんとペアを組むことになり、練習しているうちに仲良くなりました。
趣味も同じだったので話が合うようです。
〇〇さんと仲違いしたわけではなく、担任は二人が一緒に話している様子を今日も目にしていました。
担任はその内容と共に保護者に安心してもらえるような文章も添えて返信しました。
返信したのは夜9時50分頃です。
さすがに10時を過ぎてはいけないので急いで返信しました。
無法地帯でのメールのやり取り
さて、今回の保護者のメールは夜分に送るほどの緊急性を要していたでしょうか。
新たに仲良くしている友達ができたことは自分の子どもから聞いたわけですから、その子どもから今まで仲良くしていた友達との関係を聞くこともできるはずです。
もちろん学校での様子を一応確認しておきたい親心も理解できます。
それでも夜遅くにメールで確認する内容でしょうか。
保護者が深夜にメールを送ってくるという事例もあります。
メールを受け取った教員はその保護者の子どもの担任ではありませんでした。
その保護者は担任への不満を他の教員に訴えたかったようです。
保護者の気持ちもわかりますが、これでは教員の心が休みません。
疲弊する教員
友達関係についての相談、学校への苦情、家庭内のトラブルなど、さまざまな相談が保護者から教員へメールで届きます。
このような類いのメールに対して2、3行のメールで返すわけにもいきません。
文章を練り直していると返信するまでに3、4時間掛かることもあります。
メールでは丁寧な日本語を用いつつ、相手に誤解を与えないような文章を作成しなければならないからです。
そこに相手を気遣う内容なども加えるので自ずと時間が掛かります。
もちろん気疲れします。
休日にメールが届けば、保護者とメールでやり取りしているうちに貴重な休みが終わってしまいます。
電話であれば5分で済む内容なのにメールで送ると何時間も掛かります。
頑張りすぎる教員
教員はどれだけ疲弊しても頑張りすぎてしまうところがあります。
その大きな要因になっているのが「信頼関係の構築」です。
社会人であれば、どの業界にいても取引相手との信頼関係の構築が必須です。
ただ、多くの仕事は「商品の売り上げが伸びた」、「自分の営業実績が上がった」、「昇進して給料が上がった」など社員の努力が数字になって表われます。
教員はどうでしょうか。
売る商品も営業実績もありません。
多くの生徒の悩みを解決しても受験のサポートを惜しみなくしても、それが評価されて給料が上がることはありません。
そんな教員が自分は認められていると感じる場面は、生徒や保護者から「先生が担任でよかったです」、「先生のおかげで楽しい学校生活を送れました」という一言です。
このような評価は深い信頼関係がなければ得られません。
しかし、信頼関係の構築、そしてそれを維持するのは大変です。
昨年度の担任と比較されて簡単に嫌われることもあります。
生徒を注意すればその生徒や保護者から批判されることもあります。
根も葉もない嘘が広められて、白い目で見られることもあります。
そんなもろくも崩れやすい信頼関係を構築するために、教員は保護者や生徒へのサポートを頑張りすぎてしまいます。
メールでの対応はその代表例です。
教員はメールでの相談には迅速で丁寧な対応をするように努めます。
それでも、年度末に実施する学校評価アンケートで「他のクラスの担任に比べて〇〇先生はネットワークを利用しない」、「〇〇先生は返信してくれないことがある」などの回答があると、教員はそれを気にして更にネットワークを利用しようとします。
気がつけば「明日の授業参観は何時から見られますか」、「子どもが週末の宿題はないと言っているのですが本当ですか」などの質問がメールで届くようになります。
授業参観についてはプリントを配布していますし、宿題の有無は親子間で済ませてほしいことです。
でも、届いたメールを無視することはできません。
自分の限界を超えているのに仕事をセーブすることができず、結果的にうつ病などを発症して長期で欠勤する教員は少なくありません。
こんな状況を打開するために学校側がネットワークの利用方法にルールを設けましょう。
ネットワークの利用にルールを設ける
学校全体でのルール作り
まず大原則としてルールを設ける場合は学校全体で足並みをそろえましょう。
1クラスだけでルールを作ると、保護者はその担任に不満を抱きます。
学校全体で同一のルールにするのが困難であれば、学年単位でルールを作るのもよいでしょう。
ルールを整備したら、年度初めの保護者会などで学年主任がその学年の保護者に対してルールを伝えるのがベストです。
保護者は自分の子どものクラスだけでなく他のクラスも同じルールだとわかり、担任に対する不満を抱かなくなります。
では、具体的なルールを見ていきましょう。
ルール① 学校側は一斉送信したいときにメール機能を使用する
学校側は学校全体もしくは学年単位、クラス単位で連絡する必要がある場合にメールを一斉送信します。
たとえば、感染症の流行による臨時休校、体育祭の雨天中止、災害時の学校の対応などを知らせます。
学年単位であれば、渋滞に巻き込まれたので社会見学の解散時間が遅くなるなどの連絡をします。
クラス単位であれば、急な時間割の変更などを知らせます。
一斉送信は連絡を一度にできるので手間が掛かりません。
さらに、連絡したことで電話での問い合わせがなくなるので教員の負担を減らすことができます。
ルール② 保護者は緊急時を除いてメールを送信しない
「緊急時」とは生徒本人の生命に関わるアクシデントを指します。
ただし、緊急時も電話で連絡することが基本だと保護者に伝えておきましょう。
緊急時に学校と円滑に連絡がとれない場合にメールを活用してもらいます。
緊急時以外の相談は電話もしくは面談のみで対応します。
よって、欠席や遅刻の連絡も電話のみ受け付けます。
最初保護者は不便に感じるかもしれませんが、すぐに慣れます。
このルールによってメールの送受信を大幅に減らせます。
ルール③ 教員が個別送信するときは最低限の内容にとどめる
担任は特定の保護者に対してはメールを使用したくなります。
特に、電話のつながらない保護者に対してはメールで連絡したくなります。
でも、気をつけてください。
メールにすべての伝達内容を打って送信すると、相手からの返信もまたメールで届くでしょう。
それに対する教員の対応もまたメールの返信になるのではないでしょうか。
こうなってしまうと、その保護者とは毎回メールで連絡するようになります。
もしそのことが他の保護者に広まれば、他の保護者たちも相談したいときにメールでのやり取りを求めるようになります。
生徒もしくは保護者の悩みは一人ひとり違います。
そのため、教員は定型文を送ればよいというわけではありません。
毎回一から文章を作成する手間が掛かります。
日常的に複数の保護者とメールでやり取りするようになると、一日中メールばかり打たなければいけなくなります。
こうなることを防ぐために個人宛てにメールを送る場合は、最低限の内容にとどめましょう。
たとえば、「最近の学校でのお子さんの様子についてご相談したいことがあります。ご都合のよいときに学校までご連絡ください。お電話をお待ちしております」とだけ伝えます。
メールでは話を広げず、連絡したいとだけ伝えるのがポイントです。
メールは相談の導入部分にのみ使用します。
あとは保護者からの電話を待ちましょう。
ルール④ 生徒はメールを送信しない
教員と生徒の間でメールを送受信できる学校もあります。
今の子どもたちにとってメールは慣れ親しんだコミュニケーションツールです。
教員に直接話したり電話で話したりするよりもずっと気軽だと思います。
次のようなメールのやり取りが実際にありました。
生徒:「先生、明日の放課後に補習してもらえますか」
教員:「いいですよ。16時30分から始めましょう」
生徒:「ありがとうございます。教科書以外に何か持って行くものはありますか」
教員:「問題集とノートも持ってきてください」
生徒:「わかりました。補習よろしくお願いします」
メールの文面だけ読んでいると、特に問題がないように感じられます。
でも、実はこの二人のやり取りは12時間以上も掛けておこなわれています。
夕方5時に生徒から最初のメールが届き、教員はすぐに返信しました。
その後生徒はメールの着信に気づかず、3時間ほど経ってようやく返信しました。
帰宅した教員は持ち物に関するメールを送りました。
再び生徒からのメールは途絶え、翌朝になりました。
補習当日の朝5時に「補習よろしくお願いします」という最後のメールが届きました。
生徒との間でこのようなやり取りがあっても構わないと考える教員もいるかもしれません。
しかし、個別の補習を頼むならば学校で教員に直接お願いするのがマナーだと指導するのも教育です。
「明日の宿題の範囲を忘れてしまったので教えてください」というメールが生徒から届くこともあります。
宿題の範囲をメールで教えるのは親切ではありますが、それではただの手厚いサービスです。
常に教育者としての指導を心掛けたいところです。
以上を踏まえると、通常は生徒が教員にメールを送信する機会はありません。
不登校の生徒などと意思疎通を図る上でメールが役立つこともありますが、これはあくまで特別な事情です。
基本的には生徒からメールを送信しないというルールにしておくとよいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ルール作りは学校業務を減らすことにつながります。
大事なのは教員がけっして楽をするためではないということです。
職員室でパソコンに向かって保護者宛てのメールばかり打っているよりも、校内にいる生徒への教育を大切にしようといっているのです。
学校と保護者の信頼関係を築く上で、これこそがもっとも基本的で大切なことです。
ルールを設けても保護者や生徒への対応がおろそかになるわけではないので安心してください。
おまけですが、学校が教員のメール送信を積極的に管理するという事例を紹介しておきます。
たとえば、担任が保護者宛てに個別のメールを送る際には学年主任の許可を得なければなりません。
学年主任が「この件についてメールを送らなくていいよ。電話にしなさい」と言って許可を与えないこともあります。
許可制にするのは検閲みたいで嫌に思う方もいらっしゃるかもしれません。
でも、実は許可制にすることで教員がメールの送受信から抜け出せなくなるのを未然に防ぐ効果があります。
保護者個人にメールを送信していたために、メールの呪縛から抜け出せなくなった教員は多いです。
彼らは空き時間になるたびにメールの文章の続きを作成しています。
授業をしている時間よりもメール作成に掛ける時間のほうが長い教員もいます。
メールの送信を管理することで彼らを守ることができます。
以上のように、学校がその現場の実情に合ったルールを作り、教員の業務を軽減していくことが大切です。
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教育コンサルタントが学校に出張訪問して、講演会や研修をいたします。
教員対象の講演会や研修だけでなく、保護者や生徒向けの講演会もお任せください。
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今回紹介した学校業務の改善は、学校組織内の教員だけで進めるのは簡単ではありません。
なぜなら職員室内の小さな社会にはしがらみが多いからです。
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教育コンサルタントのご紹介
滝川 知靖(たきがわ・ともやす)
東京都在住の教育コンサルタント。大学卒業後に教員になり、私立高校や通信制サポート校を経て東京都内にある中高一貫教育の私立女子校で教壇に立つ。約20年間で中学1年から高校3年までの全学年の担任を務めた。特に、中学3年と高校3年の進路指導の経験が豊富。また、生徒一人ひとりの悩みに昼夜を問わず親身になって相談に乗る日々を過ごしてきた。特に、悩みを抱える子どもたちを献身的に支えたことで知られている。
現在は教育コンサルタントとして生徒および保護者のサポートをしている。その内容は、進路相談、勉強方法、不登校の生徒のサポート、発達障害のある子の支援など多岐に渡る。また、学校現場からの相談にも対応している。
近著『令和時代の私立中学校・高校選び ~わが子の進学先をどう選ぶか~』
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