韓国の学園ドラマを見ていると、陰湿ないじめの場面を目にすることがあります。
また、昨今では韓国のアイドルやスポーツ選手が学生時代にいじめの加害者だったことが報じられて大バッシングを受けています。
このような状況を知った一部の日本人は「韓国のいじめは度を超している」、「韓国のいじめは日本と比べものにならないほどひどい」とSNSで感想を述べています。
けれども、本当にそうでしょうか。
ドラマのいじめは視聴者をくぎ付けにするためのフィクションですので、ドラマで判断するのは正しいとは思えません。
それに日本で実際に起きているいじめもひどいものです。
北海道旭川市立中学校いじめ凍死事件はあまりにも残酷であるためここに詳細を書くのは控えますが、この上なくひどいいじめでした。学校の対応も最低なものでした。
熊本県の高校に通うサッカー部の男子部員は上級生から服を脱ぐよう指示されて裸で土下座をさせられました。その場面は撮影までされていました。
いじめは大学でも起きています。
立教大学の野球部では最上級生が下級生を仰向けに寝かせてバットを倒し、おでこでバットを受け止めさせていました。その際にバットが前歯に当たり、歯が欠けてしまいました。最上級生は普段から下級生に対してバットを投げつけたり殴ったりしていたとのことです。
このように年齢に関係なく、日本でもいじめは起きています。
加害者側が「悪ふざけ」、「冗談」、「お遊び」、「良かれと思ってしたこと」など軽い気持ちで誰かを傷つけることは子どもから大人までしばしば起きています。
よって、韓国のいじめ問題を対岸の火事とするのではなく、日本の学校内で起きているいじめ対応に役立てるものはないかと目を向けるのが肝要です。
韓国のいじめの処分は9段階に分かれている
韓国では学校でいじめが起きたときに、審議会を開いていじめの事実確認を行い加害者への処分を決めます。
処分内容については以下の9段階に分かれています。
いじめの処分
- 1号 被害生徒に対して謝罪文の提出させる
- 2号 被害生徒および通報した生徒への接触、脅迫また報復行為の禁止する
- 3号 校内でのボランティア活動をさせる
- 4号 社会的なボランティア活動をさせる
- 5号 特別教育の受講およびカウンセリングを受けさせる
- 6号 出席停止処分にする
- 7号 別のクラスに異動させる
- 8号 転校させる
- 9号 退学処分にする(高校生のみ)
最も軽い1号は謝罪文の提出で、最も重い9号は退学処分です。
日本には韓国のような国内共通の処分はなく、各学校でいじめに対する処分を決定しています。
日本ではほとんどの場合は被害生徒への謝罪で済まされます。
日本で加害者にボランティア活動やカウンセリングの受診を強いることはありません。
加害記録は残る
韓国では処分の記録は学校の作成する「学生生活記録簿」に残されます。
「学生生活記録簿」は成績や個人情報が記載されたものです。
日本で言うところの指導要録です。
指導要録は生徒や保護者に見せることなく学校内に保管されます。
そのため、教員以外にはなじみのないものですね。
日本では加害者が集団で誰かをいじめていたとしても、その記録が指導要録に記載されることはまずありませんので韓国とはかなり違います。
韓国のいじめに対する断固たる姿勢
2023年、韓国のハン・ドクス首相が「加害者の生徒にいじめの責任を必ず負わせます。いじめの対価は必ず払うという認識を学校現場に根付かせるようにします」と発言しました。
いじめの被害者が不登校になったり転校したりしているのに、加害者が何不自由なく日常生活を送っているのは道義に反していると考えたのです。
そこで、2026年から「学生生活記録簿」に記されたいじめの加害記録を大学入試に反映させることにしました。
「いじめに加担すると反省しただけでは済まされないよ。大学入試で不利になるからね」という強いメッセージですね。
韓国は日本以上に学歴社会ですから、いじめの抑止に大きな効果がありそうです。
また、今回の決定によって加害記録の保存は卒業後2年間から4年間に延長されたので就職活動にも影響が出ます。
ところで、この加害記録は被害者の同意があった場合のみ4年未満で削除可能です。
加害者の不名誉な記録を消すのは被害者というわけです。
韓国政府が被害者の心の傷を重視していることがうかがえます。
今後の課題
学校がいじめに対して公正に対処することが重要です。
学校の教員の中にはいじめの加害者の将来を危惧して、いじめをなかったものにしたり矮小化したりすることがあります。
「あれはいじめではありませんよ。ちょっと悪ふざけをしていただけです」と言って加害生徒をかばう者は少なからずいます。
「いじめ」と「悪ふざけ」の境界線の攻防はよくあることです。
今回大学受験の合否に影響が出るとなれば、一部の教員は加害生徒を擁護するでしょう。
けれども、それは被害生徒の心をさらに傷つけることになります。
学校側は新年度が始まるたびに生徒および保護者に向けていじめが起きた際には公正に対処することを宣言しておくのがよいでしょう。
もしいじめが起きてしまった場合には、加害生徒やその保護者がいじめの認定に対して不服を申し立てることも考えられるので、学校側は念入りにいじめを調査しておくのがよいでしょう。
フランスのいじめ対応
韓国以外の国では加害生徒にどのように対応しているのでしょうか。
フランスでは2022年に刑法を改正し、学校でのいじめを「犯罪」として扱うようになりました。
そのため、13歳以上の子どもがいじめで逮捕されることもあり得るのです。
実際、2023年9月には同級生をいじめた14歳の少年が授業中に教室内で警察官に逮捕されました。
加害生徒に対する具体的な刑罰は以下の通りです。
加害生徒への刑罰
- 被害生徒が8日以内の不登校になった……3年以下の禁錮刑および4.5万ユーロ(約700万円)の罰金
- 被害生徒が9日以上の不登校になった……5年以下の禁錮刑および7.5万ユーロ(約1200万円)の罰金
- 被害生徒が自殺または自殺未遂をした……10年以下の禁錮刑および15万ユーロ(約2400万円)の罰金
- いじめが確定した場合、学校長と自治体の長によって加害生徒を転校させることが可能
今後の日本
韓国やフランスではいじめの加害者に厳しい罰を与えることにしました。
現時点では厳罰化がいじめの未然防止につながるかは未知数です。
けれども、韓国やフランスでは加害生徒にも制裁があるという点で被害者および社会から一定の理解を得られているようです。
日本はいじめに対してはよほどの傷害事件でない限り校内でいじめを処理しています。
出席停止や退学などの処分もほとんどありません。
今の子どもたちは10代の頃からスマホを持っているので、放課後も友達とSNS上でつながっています。
家庭に帰ってからも友達から悪口を言われたりからかわれたりしている子もいます。
加害生徒が被害生徒の画像や動画をネット上に拡散する事例は数多くあります。
もはや学校内にとどまる話ではありません。
学校側がいじめの被害を把握するには限界があるのです。
学校はいじめで被害を受けた子どもたちの命を守るために警察と連携する必要があるでしょう。
2022年に自殺で亡くなった高校生は354人、中学生が143人、小学生が17人、合計514人です。
統計を始めた昭和55年以降、過去最多の数字です。
子どもたちの命を守るために、他国の政策を参考にした上で日本社会に合った法整備および対策を進めていってもらいたいです。
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滝川 知靖(たきがわ・ともやす)
東京都在住の教育コンサルタント。大学卒業後に教員になり、私立高校や通信制サポート校を経て東京都内にある中高一貫教育の私立女子校で教壇に立つ。約20年間で中学1年から高校3年までの全学年の担任を務めた。特に、中学3年と高校3年の進路指導の経験が豊富。また、生徒一人ひとりの悩みに昼夜を問わず親身になって相談に乗る日々を過ごしてきた。特に、悩みを抱える子どもたちを献身的に支えたことで知られている。
現在は教育コンサルタントとして生徒および保護者のサポートをしている。その内容は、進路相談、勉強方法、不登校の生徒のサポート、発達障害のある子の支援など多岐に渡る。また、学校現場からの相談にも対応している。
近著『令和時代の私立中学校・高校選び ~わが子の進学先をどう選ぶか~』