部活動は、教育活動の一環で人間形成の場として大きな役割を果たしています。
最近は部活動の多様化が進み、大会やコンクールに参加しない、いわゆる「ゆるい部活」も増えています。
しかし、部活動という名がついている限りは一つひとつの部活動には必ず顧問がついています。
本ページでは、部活動で顧問をしている教員の労働環境の改善について考えていきたいと思います。
※本ページは「日本の部活動は世界では珍しい!? ―部活動の意義と課題―」の続きです。最初からお読みになりたい方は以下へお進みください。
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日本の部活動は世界では珍しい!? ―部活動の意義と課題―
「学生時代の思い出は?」と聞かれたら、どの場面を思い出しますか? 授業、学校行事、休み時間なども思い出しますが、部活動の時間を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。 放課後の部活動、朝練、夏休みの ...
1、学校は働きやすい職場?
現在日本では子を持つ親に対して教育の無償化や子育て支援など手厚くもてなしていますが、教員に対して待遇の改善はされているのでしょうか。
今回のテーマ「部活動」の待遇にしぼって現状を確認しましょう。
給与と労働時間
日本では基本的にすべての教員が部活動の顧問をしています。
そんな彼らは休日に部活動の練習や大会の引率をしています。
引率の交通費は支給されますが、基本はボランティアです。
十分な手当がないにもかかわらず活動に対する責任を負わなければならないのは不適当ですね。
そこで、文部科学省は2020年に部活動改革としてガイドラインを作成しています。
・教員が希望しないにもかかわらず、休日の指導等に従事させることがないよう十分留意する
・休日に指導する場合は割増賃金を支払う
このようなガイドラインによって今後教員の労働環境は部活動についても徐々に改善されていくでしょう。
しかし、そもそも部活動は「必ずしも教師が担う必要のない業務」と位置付けられています。
海外では部活動の顧問を担当する教員に特別手当が支給されている事例があります。
これは休日などの時間外勤務に対する手当ではなく、部活動の顧問に就くこと自体に対する手当です。
日本でも部活動を担当する教員に特別手当を支給する時代がいずれ来るのかもしれませんね。
待遇改善は教員不足解消への第一歩にもなりますので、学校の働き方改革をさらに進めてもらいたいものです。
文部科学省は、先ほどのガイドラインに沿った働き方改革を公立校はもちろんのこと私立校に対してもすることが望ましいとしています。
私立校の内情は外部に知られていない部分が多いので、文部科学省はその実情を調査するべきだと考えます。
強制的な人員配置
教員は専門的な知識や経験のない分野の部活動の顧問を任せられることがあります。
たとえば、音楽経験のない教員が吹奏楽部の顧問になることがあります。
楽譜も読めず演奏もできない教員では顧問の役目を十分に果たせません。
しかも吹奏楽部は練習時間が非常に長く、夏休みもコンクールに向けて練習するので休みを十分にとれません。
知識やスキルのない教員が毎日のように音楽室でじっと座っているだけなのです。
もちろん部員への声掛けや練習日程や活動場所の調整などすることはありますが、それでも教員個人の能力を十分に発揮できているとは言えません。
残念ながら、一部の私立校における部活動の人事は拒否することを認めない強制的なものです。
教員が学校の決定に快く応じなければ地方にある系列大学の事務職を命じられるケースまであります。
このような労働環境は是正する必要があります。
ブラックな職場にならないためにも学校命令で希望していない部活動の指導を強制させたり圧力を掛けたりするのはやめるべきでしょう。
文部科学省も指導経験のない教員には部活動が多大な負担となっていると把握しています。
教員の希望を聞いた上で人員配置をおこなうようになっていくことを期待しています。
専門的知識のない教員をどうしても顧問につけなければならない場合は、顧問を複数人にして負担を軽減するなど工夫が求められます。
また、部活動の数に対して教員の数が足りない状況であれば、生徒に周知した上で計画的に部活動の数を減らす必要もあるでしょう。
2、もっと外部の人に頼ろう
教員は自分の担当する部活動にどのくらい参加しているでしょうか?
子どもの安全を守る役目があるため毎回必ず参加することが望ましいとされています。
しかし、その一方で教員は授業準備、生徒指導、会議などで放課後も多忙を極めます。
実際、部活動に顔を出すのが1カ月に1度程度という教員もいます。
これでは顧問の役割を果たせているとは言えません。
そこで必要になってくるのが教員の業務削減です。
その解決策があります。
教員以外の人に指導してもらうという、実にわかりやすい解決策です。
教員の業務が削減されるなら、前章のような待遇改善にもなっていますね。
方法は主に以下の3つです。
A、子どもたちが部活動ではなく地域のクラブで活動する
B、外部指導者を雇い、学校内で指導してもらう
C、民間団体に指導してもらう
これらの方法には教員の業務を減らす目的もありますが、専門的な指導者に教わることで子どもたちの知識やスキルを向上させる目的もあります。
ここからは上記の3点について掘り下げてみたいと思います。
A、子どもたちが部活動ではなく地域のクラブで活動する
最初に「A、子どもたちが部活動ではなく地域のクラブで活動する」についてですが、これは学校の課外活動ではありません。
子どもが近所のスイミングスクールに通ったり、少年野球で練習したりした感覚と同じです。
子どもたちは同じ学校の友達だけでなく、地域の子どもたちと共に活動するようになります。
活動形態にもよりますが、保護者が練習に立ち会う、送り迎えをするなど保護者の協力も必要です。
また謝礼を払う必要もあります。
学校から切り離された活動なので、地域のクラブ内でのトラブルは基本的にクラブ内で解決します。
このように「外部に任せてよいものは学校でしない」くらいの意識をもって改革するべきでしょう。
部活動の数が減るので教員の業務も減ります。
なお、地域に頼れない活動については部活動として存続させますが、顧問を複数にするなどして教員の負担が増えないように工夫してもらいたいです。
B、外部指導者を雇い、学校内で指導してもらう
「B、外部指導者を雇い、学校内で指導してもらう」は部活動として活動するケースです。
Bについては昔からある方法です。
全国大会を目指しているようなスポーツ強豪校では外部指導者が監督になっています。
また、ダンスや器械体操、新体操など、専門的な知識や技術がないと教えられない部活動についても外部指導者がコーチになっているケースがよくあります。
ただし、今までは教員の負担を減らすためではなく、部員のスキルを向上させるために外部指導者を雇っていました。
今後は教員の負担を減らす目的で外部指導者を雇うようになるでしょう。
C、民間団体に指導してもらう
Cは民間のスポーツクラブや芸術文化団体などに指導してもらうケースです。
Cも部活動として活動します。
文部科学省は休日に教師が部活動の指導に携わる必要がない環境を構築すべきとして、休日は地域の活動として実施できる環境を整えることが重要だと考えています。
なお、休日の学校外での部活動を「地域部活動」と言います。
私立校であれば、休日に限らず平日も民間のスポーツクラブに指導を委託することもあるでしょう。
A、B、Cのように、外部指導者をうまく活用することで教員の負担をもっと減らしていけるでしょう。
けれども、BとCはあくまでも部活動であるため、学校現場の本音としては外部指導者を教員免許保有者に限定したいところです。
顧問は学校教育を理解している者と上手に連携して部活動を運営したいのです。
しかしながら、教員不足である昨今、外部指導を教員免許保有者に限るとすれば人材を十分に確保できません。
そのため、教員免許を必須条件にするのは難しいです。
3、安心して外部指導者を雇うために
部活動の指導を学校外部に依頼することで教員の負担が減ればとても良いことです。
しかし、それによって子どもたちがトラブルに巻き込まれることがあれば、子どもや保護者、そして教員にとって実に悲しいことです。
学校は子どもたちの安全を守るためにルールを設け、外部指導者に徹底させることが大切です。
たとえば、外部指導者に対して以下のような禁止事項を伝えましょう。
生徒個人とのプライベートな連絡
生徒が性被害などに遭うのを防ぐために、外部指導者が生徒個人と連絡先を交換するのを禁止することは非常に大切です。
生徒個人が連絡先を伝えなくても、外部指導者が生徒のインスタグラムなどを見つけて私的な交流を求めるケースもあります。
生徒との指導時間外の接触
指導時間以外で生徒と外部指導者が食事や遊びに出掛けたりするのはトラブルの元になりますので禁止するべきです。
生徒への肉体的接触
部活動を指導している際に生徒の体に触れる必要はありません。
お手本を見せることで事足ります。
残念ながら現役の教員でも指導と称して日常的に異性の生徒に触れる教員はいます。
部活動で生徒の体に触れる必要性があるのは、新体操などで生徒が高いところから落下する恐れがあるときくらいです。
過度な筋力作り
指導者が自身の功績を残すために大会の結果を優先する指導になることがあります。
部活動には初心者や体力に自信のない子どもがいることをよく理解させなければなりません。
学校へ事前に報告していない活動
大会やコンクール直前に生徒が外部指導者に活動時間外にも指導してほしいと希望すると、外部指導者が学校に報告せずに活動してしまうことがあります。
逆に、外部指導者自らがリフレッシュと称して生徒たちを娯楽施設などに連れていくこともあります。
生徒思いの外部指導者と言い表すこともできそうですが、部活動が学校の管理下にあることを忘れてはいけません。
生徒にとって良い指導者であっても、学校にとっては危なっかしい指導者です。
活動内容の撮影
生徒の顔や個人情報がネット上にさらされるリスクを考えると、外部指導者が生徒を撮影するのは禁じなければなりません。
ボールを打ったり投げたりするときのフォームを撮影して技術指導に活用したい場合には学校のカメラを使用します。
その撮影データも学校側が管理します。
撮影に制限を設けなければ、技術向上の目的ではなく休憩中のスナップ写真、さらには動画撮影など歯止めがかからなくなります。
最近はスマホの普及もあって何でもかんでも撮影する人がいますのでルールが必要です。
ここでは6つのルールを挙げました。
いかがでしたか。
これ以外にも生徒の個人情報の持ち出しなど禁止事項はありますので、学校が外部指導者に依頼する際には事前にガイドラインを作成しておきましょう。
ルールをみんなに伝えておく
上記のようなルールを設けた後は、生徒や保護者にもそのルールを必ず伝えましょう。
いつでもルールを再確認できるようにプリントにして配布してください。
外部指導者に対しては生徒や保護者にルールを伝えてあることを話しましょう。
こうすることでルールを順守する気持ちが強くなります。
なんだか外部指導者をまったく信じていないようで申し訳ない気もしますが、ルールは彼らを守るためのものでもあります。
ためらわずにルールづくりを進めましょう。
なお、民間のスポーツ施設で活動する場合は保護者の見学を可能にすることで安全度が増すでしょう。
外部指導者と保護者が関わりを持つことは部活動を健全に保つ上で有用です。
理想は文部科学省が外部指導者のガイドラインを作成して情報を管理すること
学校が外部指導者に依頼する上でもっとも重視するのは、子どもが心身共に成長することです。
人手不足だからといって子どもに悪影響を及ぼす指導者に任せるわけにはいきません。
外部指導者が教員免許を持っていなくてもよいのであれば、外部指導者として働くハードルは著しく下がります。
そのため、子どもに対する罪を犯した者が自分の特技や趣味を活かして簡単に外部指導者になれてしまいます。
また、ある学校で不適切な行為をして解雇された外部指導者が別の学校で再び採用されるリスクもあります。
別の都道府県の学校であれば過去の経歴を把握することは難しいのが現状です。
よって、文部科学省で外部指導者の情報を一元化することが望ましいです。
犯罪歴のある者や不適切な指導で解雇された者が外部指導者になるのを防がなければなりません。
子どもを悲しませないために、文部科学省には情報の一元化を進めてもらいたいです。
先ほど6つのルールを例として挙げましたが、ルールについても文部科学省が統一するのが理想です。
外部指導者Aは〇〇のルールを破ったので解雇された、と公正に判断された記録を残せるからです。
このような制度づくりによって、教員および外部指導者に対する労働環境を整えてもらいたいものです。
4、まとめ
部活動について掘り下げてきましたが、いかがでしたでしょうか。
日本人の知っている部活動と海外の部活動は、活動期間や参加人数などにおいて異なる点が多かったですね。
この日本特有の部活動を維持できているのは教員の献身的な時間外労働に依存しているからです。
しかし、これは時代にそぐわない労働環境です。
教員の心身の健康を保つためにも教員不足の解消のためにも今は大きな変革の時期でしょう。
「ゆとり教育」という言葉がありますが、教員にもゆとりをもって教育してもらうほうがいいですよね。
教員と生徒どちらにもウィンウィンだと思います。
部活動の有り方がどのように変化していくのか、今後も注目しましょう。
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教育コンサルタントの紹介
滝川 知靖(たきがわ・ともやす)
東京都在住の教育コンサルタント。大学卒業後に教員になり、私立高校や通信制サポート校を経て東京都内にある中高一貫教育の私立女子校で教壇に立つ。約20年間で中学1年から高校3年までの全学年の担任を務めた。特に、中学3年と高校3年の進路指導の経験が豊富。また、生徒一人ひとりの悩みに昼夜を問わず親身になって相談に乗る日々を過ごしてきた。特に、悩みを抱える子どもたちを献身的に支えたことで知られている。
現在は教育コンサルタントとして生徒および保護者のサポートをしている。その内容は、進路相談、勉強方法、不登校の生徒のサポート、発達障害のある子の支援など多岐に渡る。また、学校現場からの相談にも対応している。
近著『令和時代の私立中学校・高校選び ~わが子の進学先をどう選ぶか~』
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