モンスターペアレントという言葉は中学生以上であれば誰もが知っている言葉ではないでしょうか。
「学校の先生は多忙で精神的に疲弊している」とよく言われますが、その要因の一つがモンスターペアレントと呼ばれる保護者の存在です。
ここではモンスターペアレントがどのような人たちなのか具体例を挙げて解説していきます。
このページ内の目次
モンスターペアレントとは?
モンスターペアレントは学校の教育方針や教師の指導を尊重せずに理不尽な要求や苦情を言って学校教育を妨害する親のことです。
自身の考えに反したことに対しては執拗に文句を言うのが特徴です。
担任の自宅に電話を掛けて夜遅くまで一方的に不満を言い続ける親もいます。
おっかない父親であれば学校の面談室でサングラス越しに教師をにらみつけ、威嚇するような口調で脅迫します。
ではいったい彼らはどのような要求や苦情を言うのでしょうか。
以下のような事例があります。
モンスターペアレントの事例
- 修学旅行先は毎年京都・奈良であるにもかかわらず、「去年家族で京都に旅行したので、子どもの修学旅行先は京都以外にしてほしい」と要求する。
- 「どうせうちの子どもは宿題をしないのでうちの子どもには宿題を出すな」と要求する。
- 推薦入試の基準を満たすために子どもの欠席回数を実際よりも減らすように要求する。
- 学校側がいじめをしていた生徒を注意して被害生徒に翌日謝罪するように指導したが、加害者側の親が「謝罪は意味がない」と言って謝罪を拒否する。
もちろん教師はこのような要求や苦情に対して丁寧に対応します。
保護者の要望をお受けできない理由を何度も何度も説明しますが、モンスターペアレントと呼ばれる保護者は自分の主張を曲げることなく不満を募らせます。
教員がこのような保護者の感情を落ち着かせるために費やす労力と時間は馬鹿になりません。
授業や部活動の指導そして生徒指導だけでも大変なのに、大人である保護者の対応までしなければならないのは本当に大変なのです。
ちなみに、教員は彼らのことを「モンスターペアレント」と失礼な言い方で呼ぶことはありません。
教育現場の外で使われている呼び名です。
モンスターペアレントには4つのタイプがある
モンスターペアレント化する保護者には主に4種類のタイプがあります。
もし保護者の方がこの文章を読んでいたとしたら、間違ってもモンスターペアレントにならないようにそれぞれのタイプを知って行動を自重できるようになれるといいですね。
1、自分の子どもを過度に溺愛する親
子どもへの盲目的な愛情によって学校に理不尽な要求をする保護者がいます。
一例を挙げましょう。
遠足のしおりを見て怒った中学生の保護者が担任に電話を掛けてきて、「歩く時間が長くて子どもがかわいそうだ。途中で倒れたらおまえの責任だぞ。当日はバスをチャーターしろ」と強く訴えてきました。
実際の歩行距離は合計2キロほどで中学生であれば歩ける範囲です。
季節も春で熱中症の心配はありません。
親がわが子を大事にするあまりにこのような要求が生まれるのでしょう。
「途中で転んでケガしたらどう責任を取るんだ」、「気分が悪くなって当日塾に行けなかったらどうしてくれるんだ」
学校は子どもたちの安全面に十分配慮していますが、不確実な未来のアクシデントをすべて防げるわけではありません。
万が一生徒の誰かが2キロ歩いている間に具合を悪くしてしまったら、後でこのような保護者から厳しく非難されます。
もちろんこういう親は日常の学校生活においても感情的です。
子どもが転んでヒザを擦りむいたり体調が悪くなったりするだけで教員を憎む親もいるのです。
モンスターペアレントが一人いるだけで、教員たちは過度に精神的な負担を感じて教育活動をおこなわなければいけなくなるのです。
また、わが子を溺愛する親は子どもの希望を叶えることを優先します。
たとえ校則違反でも子どもがお化粧をしたいと言っているならば、親子揃って学校の指導に対して反発します。
子どもがマラソンを嫌がれば、親が体育教師に連絡して「体育の授業からマラソンをなくしてほしい」と訴えます。
彼らは自身の考えが正しいと信じているため、自分の考えが通るのは当然だという物言いをします。
2、自身の感情を最優先にする親
モンスターペアレントと呼ばれる保護者は子どもを第一に考えているように見えて、実は自分の感情を優先して行動する人が多いです。
たとえば子どもが学校で何か悪さをして教員から注意を受けた際に、それを知った親が学校に怒鳴り込んできて「うちの子どもはそんなことしません!」と教師を何時間も批判することがあります。
親のプライドが強く、わが子を注意されるのが許せないのでしょう。
「私は子どもをそんなふうに育てた覚えはありません!」と言って教員を非難する親がいますが、これは親のプライドがそのまま表れたものです。
このタイプの保護者は子どもが非を認めて反省している場合でも「そんなわけがない!うちの子どもは何も悪くない!」と根底からくつがえそうとします。
子どもがいじめの加害者であるときでさえも、このタイプの親は「被害者側に問題がある!」と平気で言ってのけるのです。
真実がどうであるとか、子どもの気持ちがどうであるとかは関係ないわけです。
ところで、近頃は親子が友達のような関係を築いていることは珍しくありません。
仲が良いのは結構ですが、親がその関係を壊したくないからと言って家庭内で注意するべきことを学校に押し付けてくるのは困ります。
実例を挙げましょう。
ある親は娘に放課後すぐ帰宅させたいと思っています。
けれども、娘は放課後に友達とおしゃべりするのが大好きです。
あるとき、親が担任に電話を掛けてきました。
「うちの娘が放課後すぐに帰宅しません。部活動のない生徒は放課後すぐ下校するように指導してください。私がお願いしたことは絶対に秘密で。学校のルールだと生徒たちに伝えてください。『学校のルール』だと言えば娘は素直に従いますから」
家庭内で門限を決めると親が子どもの行動を管理しなければいけません。
けれども、校則であれば教師が指導してくれるのでこの親は助かるわけです。
友だちみたいに仲のよい親子関係が悪くなることもありません。
担任は「放課後すぐに下校しなければならないという校則はありませんのでご家庭で門限を決めてください」と親に伝えましたが、娘と仲良くしていたい保護者は憤慨して自分の意見を押し通そうとします。
自分の気持ちばかりを優先して、学校の生徒全員にルール変更を強いることについて申し訳ないとも思っていません。
このように親が自分の気持ちばかりを優先して学校に理不尽な要求を繰り返すことはよくあるのです。
自分の感情を最優先にする親は4種類のモンスターペアレントの中で一番多い気がします。
3、子どもに支配されている親
親が子どもに支配されていることがあります。
子どもから日常的に暴言を言われたり暴力を受けたりすることで、親が子どもを注意できなくなり言いなりになってしまうのです。
このような子どもは学校で教師に注意されると、家に帰って親に当たります。
すると、親は子どもの怒りをなんとか鎮めたいので教師にクレームをいれます。
子どもの言いなりですから、学校に対してどんな理不尽な要求もします。
親が子どもに支配されているケースは表面化しにくいのが特徴です。
そのため、子どもが親に対して不満をぶつけていると、周囲の人は「一過性の反抗期だ」と結論づけてしまいがちです。
けれども、このようなケースでは子どもが精神的な病を抱えていることがあります。
一方で親も子どもからの支配を受け入れてしまう精神状態になっています。
親子それぞれにメンタルケアが必要なのでしょう。
このような保護者はモンスターペアレントの中でも少数派です。
学校は親子それぞれの精神状態に配慮するなど慎重な対応が求められます。
4、子どもの話を100%信じる親
人間誰しも嘘をつきます。
嘘の内容や頻度に差はありますが、子どもも大人も嘘をつきます。
子どもであれば、失敗や悪さをしたときに誰かに叱られるのが嫌で嘘をつくことが多いのではないでしょうか。
嘘をつきたくなる気持ちは理解できます。
けれども、誰かに大きな迷惑を掛けているとしたら嘘をついてやり過ごすことはよくありません。
学校は集団生活の場です。
皆が気持ちよく過ごすためには、誰かが他者に迷惑を掛けたら反省して行動を改めなければなりません。
しかし、やはり嘘をついてしまう生徒はいます。
学校で同級生を傷つけたり物を壊したりしたときに非を認めて素直に反省できる子もいれば、それができない子もいるのです。
多数の目撃者の話からAさんが悪いことをしていたのは間違いないのですが、Aさんは認めません。
Aさんと一緒に悪いことをしていた他の子たちは反省しています。
教師はAさんの気持ちを傷つけないように慎重に話しましたが、Aさんは認めませんでした。
その日の夜にAさんの親が学校に来ました。
「うちの子どもは悪いことをしていないと言っているのに、なぜ信じないのか」と怒っています。
教師が他の生徒たちの証言や状況などを説明しても、Aさんの親は他の生徒たちの証言が嘘だと言います。
わが子の言動を100%信じているのです。
こんなふうに周囲から見れば明らかに嘘をついているとわかっているときでも、親だけはわが子の言葉を信じて学校へ猛抗議してくることがあります。
いじめの加害者側であるにもかかわらず、教師や他の生徒からあらぬ疑いをかけられたと主張して被害者意識を持つこともあります。
このような保護者はわが子を悪者扱いした教師たちに強い不満を持ち、何事においても批判的になります。
このような保護者はある意味でとてもかわいそうです。
その保護者以外の全員がその子どもが悪いことをしたと知っているのですから。
もちろんその子どももそれを知っています。
子どもは自分の嘘を信じて暴走してしまった親のことをどう思っているのでしょうか。
モンスターペアレントのその後
さまざまな事情でモンスターペアレントになってしまった保護者。
彼らはその後どうなっていくのでしょうか。
傍若無人の保護者であれば子どもが卒業するまでわが道を進みます。
特にひどい保護者の場合、嫌いな教員の評価を下げるデマを他の保護者や子どもに流します。
たとえば、子どもが学校で正当な理由で指導されたにもかかわらず、その保護者が腹を立てたときです。
周囲の保護者や子どもたちに「教員の指導方法に問題があった」と吹聴し、自分の味方につけようとします。
自分の味方を増やすためならば話をいくらでも捏造します。
友だちの親の話を信じる子どもたちは教師に対して嫌悪感を抱くようになります。
こんなふうに1人の親のプライドからクラスが崩壊してしまうことがあるのです。
一方で、モンスターペアレント化した保護者が周囲から嫌われることもあります。
自身の感情を優先して教員に苦情を言う親や、子どもの話を100%信じる親は嫌われやすいです。
学校内で起きた出来事はたくさんの生徒たちに見られています。
教師が適切に生徒を叱ったのであれば、他の生徒たちはその指導を評価します。
そのため、親が理不尽な行動をとった場合、生徒たちから馬鹿にされます。
その生徒たちは自分たちの親にその話をしますので、他の保護者からも距離を置かれます。
もっとも悲しいのは、親がモンスターペアレント化したことでその子どもが他の生徒たちから白い目で見られることです。
めぐりめぐって自分の子どもが孤立しないように保護者は自分の振る舞いに気をつけなければいけませんね。
ヘリコプターペアレントとは?
モンスターペアレントという言葉は日本人による和製英語で、海外の人には通じません。
では、どのように表現すれば伝わるのでしょうか。
一番近い表現は「ヘリコプターペアレント(helicopter parent)」だと言われています。
ヘリコプターペアレントとは、自分の子どもを干渉し続ける親のことです。
ヘリコプターが空中で同じ位置にとどまっている状態をホバリングと言いますが、ホバリングのように親が子どものすぐそばにとどまっているのでヘリコプターペアレントと呼ばれるようになりました。
このような親は中学生や高校生になってもずっと子どものそばにいて助言します。
過干渉であって過保護でもありますね。
ところでモンスターペアレントとヘリコプターペアレントは「わが子を守りたい」という点で似ていますが、意味は多少異なります。
モンスターペアレントは教師などへ意識を向けていますが、ヘリコプターペアレントは自分の子どもに意識を向けています。
そのため、ヘリコプターペアレントが教師と良好な関係を築いていることは珍しくありません。
ちなみに、受験戦争で有名な韓国では子どもに付きっきりになって勉強を教え、将来の進路や交友関係にまで干渉するヘリコプターペアレントが多いと聞きます。
まとめ
モンスターペアレントについてご理解いただけたでしょうか。
現在の日本は教員不足、教員の長時間労働など教育の低下につながる大きな問題を抱えています。
その問題をいっそう深刻化させているのがモンスターペアレントの存在です。
これは学校レベルではなく国レベルで解決していく問題です。
早急に対応してもらいたいと願っています。
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教育コンサルタントの紹介
滝川 知靖(たきがわ・ともやす)
東京都在住の教育コンサルタント。大学卒業後に教員になり、私立高校や通信制サポート校を経て東京都内にある中高一貫教育の私立女子校で教壇に立つ。約20年間で中学1年から高校3年までの全学年の担任を務めた。特に、中学3年と高校3年の進路指導の経験が豊富。また、生徒一人ひとりの悩みに昼夜を問わず親身になって相談に乗る日々を過ごしてきた。特に、悩みを抱える子どもたちを献身的に支えたことで知られている。
現在は教育コンサルタントとして生徒および保護者のサポートをしている。その内容は、進路相談、勉強方法、不登校の生徒のサポート、発達障害のある子の支援など多岐に渡る。また、学校現場からの相談にも対応している。
近著『令和時代の私立中学校・高校選び ~わが子の進学先をどう選ぶか~』